猫を起こさないように
日: <span>1999年3月10日</span>
日: 1999年3月10日

G3(3)

 「それではG3の完成を祝して」
 「乾杯」「乾杯」「かんぱ~い」
 「(吸いさしの煙草を指に挟んだまま居酒屋内のさざめきに目を細めて)これ終わったら、もうみんなべつべつの仕事に散っちまうんだよなぁ。一本撮るたびに集まって別れて、毎度のことだけど感慨深いよ。こういうのって学生んときの卒業式後の打ち上げを思い出さないか。永遠にこうやってひとところにとどまらずに、自分の腕だけを頼みにジプシーみたいに渡り歩いて…ほんと因果な商売だと思うよ。…こういう席に出るといつも無性に寂しくなって、みんなでこのまま一緒に暮らそうぜって、みんな抱きしめて叫びたい気持ちになるんだ……え、俺? 俺に用かい? うん。きみ名前は。佐上君。バイトで入ってたのか。どうだった、現場の雰囲気は。そう。そりゃ良かった。俺さ、大学で演劇やってたときも思ったんだけど、こうやって大人数で何か一つをつくりあげるって作業は病みつきになるだろう。特にせっぱ詰まったときのみんなの連帯感とかさ。違うことを考える違う存在のはずなのに、互いが同じことを感じていることを互いに何も言わずに知っている瞬間があるんだ。そのときの感じをまた味わいたくて、俺ァ20年近くもここに居座り続けてるんだな……ごめんよ、余計な話だったな。年くうと話が回りくどくなっていけないよ。で、何が聞きたいわけ。そんなしゃちほこばるなよ。…邪神を封じる剣? ああ、あったね、そう言われれば。なんだったっけか、なんとか束の剣。十束? 八束? まぁ、いいや。で、君はあの剣とそれを司る一族の存在意義がシナリオ上で希薄だと思ったわけだ。いいよ、わかるよ、言いたいことは。あそこはちょっと難解にし過ぎたって反省してるんだ。最近の流行りに無意識のうちに当てられちまったんだろうな。確かに一回見ただけじゃ、蛇足だって思われちまうかも知れない。でも、ねらった効果というか、意図はあるんだ。短い、刃こぼれした、どんな現実の脅威に対しても無力そうなあの頼りない剣は、惣領家の息子の自身のチンポに対するコンプレックスの具現なんだよ。先祖代々のほこらから剣を自信なげに取り出すが、前多愛のやってくるのにあわてて元に戻して扉を閉めてしまう場面は、自身のチンポがいったい婦女子に充分な満足を与えることができるほどの代物なのかどうか懐疑的になっている童貞少年にありがちな不安を暗示している。この場合ほこらとその扉は、チンポの余分な皮と解釈するとわかりやすい。次に、京都駅でイリスが前多愛を陵辱しようと迫るのに対して、ひきずりだした剣を投げつけてみせる場面だが、これは前多愛という極上のロリータの貞操の分け前を、イリスという極太チンポにおずおずと要求しているんだ。うん、イリスに少しの打撃も与えることができないままはじき返される剣は、彼自身の性急な若い欲望の達成されなかったことを表していると君は解釈したわけだね。惜しいけれどちょっと違うな。はじき返された剣は前多愛の頬をかすめ、彼女に血を流させるだろう。これは彼女の処女性の一部を、少年が自らの矮小なチンポで切り取ることに成功したことを教えてくれているんだ。最後に、前多愛へ不必要なまでに接近し自らのチンポの象徴である剣を極太チンポの化身であるイリスにつきつける少年は、自分のチンポに生まれてはじめて自信を持ち、自立の道を――チンポだけにね――ようやく歩みだしたと言える。まァ、前多愛の処女性のすべてという分不相応な分け前を要求した罰として、少年は叩きのめされてしまうんだがね。どうだい。ガメラとイリスという二大チンポに圧倒されて見落としがちだが、こんな細部にもちゃんとドラマが挿入されていることに――チンポだけにね――気がついて欲しい。一つも、一カットたりとも無駄なシーンというのは無いんだよ。うん。いや。これからどうするかは知らないけれど、またいっしょに仕事できるといいね。うん。(席に戻っていく小太りの青年の後ろ姿を見送りながら)寂しいよな。本当に寂しいよ。みんなでずっといっしょに、満員電車みたいにして暮らせたらいいのにな……」